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横浜地方裁判所 昭和48年(ワ)1559号 判決 1984年6月20日

原告

小林達哉

右訴訟代理人

川田敏郎

被告

将基面直

右訴訟代理人

川尻政輝

主文

一  被告は原告に対し、別紙不動産目録記載(一)の建物につき、原告の共有持分二分の一とする所有権移転登記手続をせよ。

二  原・被告共有にかかる別紙不動産目録記載の(二)ないし(四)の土地及び別紙有体動産目録記載の動産(但し、そのうち、水銀血圧計付属付一個、十二指腸ファイバースコープ一個、医療関係書藉一二冊は原告の、その余は被告の各占有にかかる)を競売に付し、売得金の中から競売費用を控除した残金を、原・被告各二分の一の割合で分割交付することを命ずる。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、それぞれを各自の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一項と同旨

2  別紙不動産目録記載(二)ないし(四)の土地につき、そのうち、別紙図面の(イ)、(ロ)、(ハ)、(チ)、(リ)、(ヌ)、(イ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分355.445平方メートルの土地を原告の所有に、同図面の(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分355.44平方メートルの土地を被告の所有に分割する。

3  被告は原告に対し、別紙不動産目録記載(三)の土地及び同目録記載(二)の土地のうち、別紙図面の(ロ)、(ハ)、(チ)、(リ)、(ロ)の各点を順次結んだ直線で囲まれた部分31.482平方メートルの土地につき、共有物分割に基づく所有権移転登記手続をせよ。

4  被告は原告に対し、金三〇六一万三三九六円及び内金二一七三万五五二四円に対する昭和四八年一一月二日から完済まで、内金八八七万七八七二円に対する昭和五五年一一月七日から完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告の負担とする。

6  第四項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求はいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告は共に医師であるところ、昭和四六年八月ころ、次の条件の下に共同で病院を経営する旨の契約(以下「本件契約」という)を締結した。

(一) 原告と被告が病院において医療行為に従事する。

(二) 病院の財産は原告と被告の共有とし、持分割合は各二分の一とする。

(三) 病院の開業資金は被告名義で銀行から借受ける関係上、病院経営に必要な不動産及び有体動産の所有名義、債権債務等対外的な行為の名義は一切被告とする。

(四) 利益・損失の分担は、原・被告とも各二分の一とし、病院の収支は被告が管理し、毎年一月一日から一二月三一日までの収支を計算のうえ、収益が生じた場合は原告と被告が期間中に受領した金員を含めて同額の金員を取得するよう利益分配をする。

(五) 契約の期間の定めはない。

そして原告と被告は、右契約に基づき、昭和四六年八月二〇日から横浜市旭区南本宿町一四七番地で大旺病院の名称をもつて開業し、医療行為に従事した。

2  ところがその後原告と被告の間で病院経営についての方針等に意見の相違を来し、そのため原告は昭和四八年四月二〇日ころ被告に対し、同月末日をもつて前記契約を解消する旨の意思表示をし、該意思表示はそのころ被告に到達した。

3  これによつて本件契約は解消したが、これに伴い原告と被告は残余財産の分配について協議したが、合意が成立しなかつた。

4  ところで、原告と被告は、本件契約に従い、同契約の終了した昭和四八年四月末日までの間に、別紙不動産目録記載の各不動産(以下「本件不動産」という)及び別紙有体動産目録記載の有体動産(以下「本件動産」という)を被告名義で買受け、本件不動産については被告名義で所有権移転登記を経由した。しかし、本件不動産及び本件動産はいずれも原告と被告の持分各二分の一の割合による共有である。

5  本件不動産のうち別紙不動産目録記載(二)ないし(四)の各土地(以下「本件各土地」という)を持分各二分の一の割合で分割すると別紙図面(イ)、(ロ)、(ハ)、(チ)、(リ)、(ヌ)、(イ)と(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(ハ)をそれぞれ順次結ぶ直線で囲まれた範囲となる。

6  本件動産の価額を原・被告が病院の共同経営を解消した昭和四八年四月末日をもつて評価すると、総額は一四一三万八四八四円(別紙有体動産目録右欄に記載した金額の合計)となる。原告は本件動産につき二分の一の割合による持分を有していたので右金額の二分の一にあたる金七〇六万九二四二円を被告に請求しうるが、原告は既に本件動産のうち水銀血圧計付属付一個、十二指腸ファイバースコープ一個、及び医療関係書籍一二冊を受領しているので、その評価額合計七一万八六六〇円を右金七〇六万九二四二円から控除すると金六三五万〇五八二円となる。

7  原告と被告が昭和四六年八月病院の共同経営を始めたときから昭和四八年四月末日これを解消するまでの間の金銭の収支を原・被告各二分の一の割合で精算すると、原告が被告から受領すべき金員は次のとおりである。

(一) 昭和四六年分 金二五〇万円

被告は別紙不動産目録記載(一)の建物(以下「本件建物」という)の建築費用として金一三〇〇万円を要したとして収支の計算をし、原告に収益を分配したが、実際に要した費用は金八〇〇万円であつた。従つて、右各金員の差額金五〇〇万円の二分の一の金額金二五〇万円は原告が被告に請求しうる金額である。

(二) 昭和四七年分 金一一九七万三九五六円

病院経営による昭和四七年一月一日から同年一二月末日までの総収入は左記収入の合計金一億七八〇九万七四四七円である。

(1) 保険窓口収入金三一一一万八一二二円

(2) 労災保険による収入金七八四万一〇五六円

(3) 保険基金による収入金一億一〇六七万八〇八四円

(4) 交通事故による治療費の窓口収入金一一七七万〇一八五円

(5) 交通事故による治療費の銀行送金による収入金二〇〇万円

(6) 交通事故以外の自由診療費収入金三六万円

(7) 部屋代差額による収入金一〇九五万円(一日金三万円×三六五日)

(8) 診断書作成による収入金五一万二〇〇〇円

(9) 死亡診断書作成による収入金七五万円

(10) 傷病手当等支給に要する文書作成による収入金一五万円

(11) 食券販売による収入金一二〇万円

(12) 従業員の食事手当による収入金六〇万円

(食費を必要経費として純収入を計算しながら、実際はその金額を従業員から受領しているので、分配金の計算上は収入となる)

(13) 看護婦の住居使用料による収入金四万八〇〇〇円

(14) 赤電話の検査料返戻金による収入金一二万円

右各収入を得るに要した必要経費は金一億一九二三万八三九四円であるから、これを右収入合計金一億七八〇九万七四四七円から控除すると金五八八五万九〇五三円となり、この金員が諸経費控除後の所得金額である。しかし、右所得金額を原告と被告が二分の一の割合で分配するに当つては、原告が被告から給与名義で受領した金八三八万円は必要経費として既に控除してあるので、控除をしないものとして計算する必要があり、右必要経費額から金八三八万円を減じた金一億一〇八五万八三九四円を収入合計から控除した金六七二三万九〇五三円が諸経費控除後の所得金額ということになる。従つて、右金六七二三万九〇五三円につき被告名義の所得税金二五七三万一四〇〇円、県市民税金七三三万七〇一〇円、事業税金三九万二二四〇円の合計金三三四六万〇六五〇円及び原告名義の所得税金二九八万九〇〇〇円、県市民税金一七〇万一六七〇円の合計金四六九万〇六七〇円の総合計金三八一五万一三二〇円を控除すると残額は金二九〇八万七七三三円となり、この金員の二分の一にあたる金一四五四万三八六六円が原・被告のそれぞれ受領すべき分配金である。ところで、被告は従前分配金として金二五三九万八四〇三円を受領しているので、これと右金一四五四万三八六六円との差額金一〇八五万四五三六円が原告が被告から受領すべき金員である。

各種税金は病院経営の収入から支払つた残額につき二分の一の割合で計算したものであるが、被告は原告に対する県市民税金一七〇万一六七〇円のうち金五八万二二五〇円を収入から支払つたのみであり、残額金一一一万九四二〇円は原告がこれを支払つたからこれも被告からその償還を受ける必要がある。

よつて、昭和四七年分の請求金額は頭書のとおりとなる。

(三) 昭和四八年分(昭和四八年一月一日から同年四月末日まで) 金九七八万八八五八円

昭和四八年一月一日から同年四月末日までの諸経費控除後の所得金額は昭和四七年分の所得金額を基礎として計算すると金二二四一万三〇一七円となり、右金員の二分の一にあたる金一一二〇万六五〇八円が原・被告のそれぞれ受領すべき分配金である。しかし、原告は既に給与名義で金一四一万七六五〇円を受領しているので、これを控除すると、原告が被告から支払を受けるべき金員は金九七八万八八五八円となる。

8  よつて原告は被告に対し、次のとおり請求する。

(一) 本件建物の共有持分権に基づき、本件建物につき原告の共有持分二分の一とする所有権移転登記手続、

(二) 本件各土地の共有物分割請求権にもとづき、本件各土地につき請求の趣旨2のとおりの分割と同3のとおり、右分割により原告所有とされた土地について所有権移転登記手続、

(三) 本件動産の共有物分割請求権にもとづき本件動産の価額の半額にあたる金六三五万〇五八二円及びこれに対する催告後の昭和五五年一一月二七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、

(四) 本件契約にもとづく利益分配金として金二四二六万二八一四円及び内金二一七三万五五二四円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四八年一一月二日から、内金二五二万七二九〇円に対する催告後の昭和五五年一一月二七日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、

9  仮に本件契約が組合契約だとしても、原告は被告に対し組合財産の分配請求権を有する。即ち、原・被告二人組合において、一人の脱退は解散事由となる。その後清算手続が必要となるが、清算手続と同一の結果をもたらす限り常に清算手続が必要となるものではない。被告は昭和五一年一〇月大旺病院の組織を診療所に変更して現務を結了し、診療報酬債権の取立はすでに完了しているものとみるべきであり、医療金融公庫(以下「公庫」という)、株式会社横浜銀行(二俣川支店扱い、以下「横浜銀行」という)その他の債務についても既に弁済を完了している。従つて、本件において、清算手続は不要というべきで、原告は被告に対し残余財産の分配請求権を有する。

二  請求原因に対する認否<省略>

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因事実1のうち、原・被告共に医師であること及び昭和四六年八月二〇日から横浜市旭区南本宿町一四七番地で大旺病院が開業し、原・被告が同病院で医療行為に従事したことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、大旺病院が原・被告の共同経営であつたか否かについて以下検討する。

1  <証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

(一)  原・被告は昭和三九年頃横浜市立大学附属病院第二外科に共に勤務していた時に知り合い、その後原告は同病院に残り、被告は伊東市にある国立伊東温泉病院に勤務するようになつたが、その頃、原・被告間で、将来病院を開設する時には共同で経営しよつと話し合つていた。

(二)  昭和四五年四月ころ、原・被告は同人らの先輩の勧誘により共に相模原協同病院の外科に勤務するようになり、同年一二月中旬、被告の知己の病院開業コンサルタント飯島勇(以下「飯島」という)と会つて病院開業の方法等についてのアドバイスを受けた。その際、飯島から、同人の見聞した過去の失敗例に基づき、病院の共同経営が困難を伴うものであり、これを行う以上、原・被告も全く平等な立場で行わなければならないことなどの話をきき、原・被告とも了解した。

(三)  被告はそのころ、同人の妻がかつて勤めていた山口運輸倉庫株式会社(以下「山口運輸」という)の山口社長から同社所有の社員寮(本件建物の改築前の建物)及びその敷地(本件各土地)が売却されることを聞知したので、急拠原告と相談のうえ、右社員寮を改築して病院として利用することを計画し、これらを金三〇〇〇万円で購入することとした。そして、原・被告はとりあえず同年一二月三〇日、被告が金二〇〇万円、原告が金一〇〇万円を拠出してつくつた合計金三〇〇万円を山口運輸に支払つた。

(四)  右土地建物を始めとして病院開設に必要な医療器具等の購入、建物の改築、改装につき、原・被告とも自己資金がなかつたので、横浜銀行及び公庫からの借入が必要であつた。そこで、原・被告は、原告が公庫から借入を、被告が横浜銀行からの借入をそれぞれ担当することとして、折衝にあたつた。

原告は公庫への融資申込手続をした際、被告を代表者とし、自らについては共同経営者という肩書を付して連帯保証人としたが、公庫から貸付の相手方は病院、診療所等の施設を開設する個人又は法人に限られ、複数名義による施設開設の資金は融資の対象にならず、かつ公庫の融資対象の建物の所有権は開設者が有しなければならないことになつていることを理由に共同経営の具体的方法についての説明を求められたので、被告と相談した結果、病院の早期開業にこぎつけるための方策として、共同経営者という右肩書を削除し、原告を単なる連帯保証人とした。

横浜銀行からも被告名義で金二五〇〇万円を借入れたが、原告はこれについても連帯保証人となつた。

被告は横浜銀行から借入れた右金二五〇〇万円と同人の叔母から借りた金二〇〇万円の合計金二七〇〇万円を昭和四六年七月二〇日山口運輸に支払い、同日付をもつて、山口運輸の土地建物につき被告名義に所有権移転登記をした。このように被告名義の登記をしたのは前述の公庫の融資条件に合わせるためであつた。

(五)  病院開業準備のため、被告は昭和四六年五月に相模原協同病院を辞めたが、原告は二か月程遅れて同年七月に辞めた。これは新しく開業する病院の診療科目の中に専門外の整形外科を加える予定であり、原告がこれを修得するためであつた。その間原告は病院開設に必要な医師や看護婦のほとんどを集めた。

(六)  昭和四六年八月二〇日大旺病院として開業の運びとなり、原告が外科を、被告が内科・小児科をそれぞれ担当することとし、被告を院長とした。

大旺病院開業披露の案内状は原・被告の連名で出し、また各個人名義の開院挨拶状も出した。

(七)  開業後、原・被告は平日はもとより、日祭日も休みなく働きどおし、当直は二人が一日置きに交替でした。また、給料は原・被告とも同額とし、昭和四六年分の利益として生じた金六〇〇万円につき、大旺病院の顧問税理士松島英雄(以下「松島」という)は被告から原・被告の年間所得を同一額にするよう指示を受け、計算の結果、原告に対し金三五〇万円、被告に対し金二五〇万円と配分した。

(八)  昭和四七年八月中旬ころ、原告が大旺病院の看護婦と婚約したことが契機となつて、原告の女性関係が表面化し、原告は、病院の対外的信用を心配し、その解決に苦慮した被告の不信を買うようになつた。さらに、昭和四八年四月ころ、昭和四七年分の利益分配をめぐつて原・被告間に対立が生じてきた。松島は被告から原告とのトラブルを聞き、そのころ知合の山本博弁護士を紹介した。山本博弁護士は被告から事情を聞き、解決策として「大旺病院の経営に関する覚書」案(甲第三号証)を作成した。右覚書は、第一条において、原告と被告は従来実施してきた大旺病院の共同経営に関するとりきめ、慣行、取扱いをすべて合意の上解約し、第三条において、被告は原告を今後税込金一〇〇〇万円で雇傭するものとする内容であつた。そして松島は、昭和四七年分の利益分配につき、原・被告各自の所得額から所得税、県市民税、事業税の納付額を差し引いた残額が原・被告に平等になるよう被告から原告へ金員を支払うなどの調整した案を記載した計算書(甲第二号証の二)を作成し、被告の依頼を受けて、これを右覚書とともに原告に手交した。

(九)  原告は前記覚書の内容に不満をもち、昭和四八年四月二〇日ころ被告に宛て大旺病院の共同経営を同月末日限り解消したい旨の申入を記載した書面を松島に託し、同人は被告にこれを郵送し、これはそのころ被告に到達した。

2 以上の事実を認めることができ、これによれば、原・被告は共に医療行為に従事し、大旺病院を共同で経営し、その財産は持分各二分の一の共有とするが、対外的には被告の単独名義とし、利益の収受及び損失の負担は共に平等とするという黙約の下に開業準備行為に着手し、同病院を開業するに至つたものと認めることができる。

3  もつとも、<証拠>によれば、前記横浜銀行からの借入に際しては、被告の妻、父及び従兄弟らが連帯保証人或いは物上保証人になつており、公庫からの金二六五〇万円の借入については資力のある被告の従兄弟を連帯保証人として追加することにより、それが実現できたことを認めることができるところ、被告は、その本人尋問で、右の事実に照らして大旺病院は被告の個人経営にかかるものであると供述する。しかしながら、右事実は前記1・2の認定をなんら妨げるものではない。

また、被告は、その本人尋問で、原告が横浜銀行及び公庫からの借入の連帯保証人となつたことは右銀行等の判断によるもので被告の與り知らないところであると供述する。しかしながら、原告が仮に被告主張のように被告の被傭者に過ぎなかつたとすれば、前記のような多額の借入債務につき原告が果して連帯保証債務を負担したか疑問であることを考えると、右供述は直ちに信用できないものといわなければならない。

(二) さらに、被告は、その本人尋問で前記大旺病院の経営に関する覚書の案(甲第三及び第一〇号証)の作成について山本博弁護士や松島から何らの相談を受けたことはなく、被告の関知しないものであり、また松島作成の前記昭和四七年分利益分配の計算書(甲第二号証の二)についても被告の関知しないものであると供述ずるが、この供述は証人松島英雄及び同矢吹正彦の証言に照らして到底信用できない。

二以上のとおり、原告と被告は大旺病院開業にあたり、本件契約を締結したのであるが、これは、出資、事業の共同、損益分配の割合についての黙約等の内容に照らし、民法上の組合契約と解するのが相当である。

そして、本件契約のように組合員が二名の組合において、うち一名が脱退の意思表示をした場合には、組合は当然解散すると解するのが相当であるところ、前記のとおり、原告は昭和四八年四月二〇日ころ被告に対し、同月末日限り本件契約を解消する旨の意思表示をし、これは組合脱退の意思表示と解せられ、かつそのころ被告に到達したものと認められるから、本件組合契約はこれをもつて解散したものというべきである。

組合が解散したときは清算をする必要があるが、脱退により組合員が一名になつたために解散した場合には、残留組合員が清算人になるものと解するのが相当である。そして、清算人は現務を結了し、債権を取立て、債務の弁済をした上で残余財産を分配すべきである。

ところで、本件の場合、被告は本件契約の成立を否認しているので、被告が形式的に清算手続を行うことを期待し得ないが、このような場合でも、解散後の組合財産に関する被告の行動を実質的に観察し、清算手続を経たのと同一の結果が認められれば、形式的に清算手続を経ていなくとも、清算手続を経たものとして、これに基づく原告の権利を認めるのが信義則上相当である。

しかして、被告本人尋問の結果によれば被告は昭和五一年一〇月大旺病院の診療形態を診療所に変更したことが認められるから、これによつて組合事業であつた病院の業務は終了したものといつて然るべきであり、債権の取立については、解散後既に一〇年以上を経過した現在もはやこれも完了しているとみるべきであり、債務の弁済については、被告の相殺の主張に照らして、これも既に完了していると認めるべきである。

従つて、残るは、原・被告各二分の一の割合による残余財産の分配であるところ、これについては、原告は民法第二五八条(共有物分割請求の訴)に準じて、裁判所に対し、個々の財産につき分割の請求をすることができると解するのが相当である。けだし、組合財産は組合目的達成のための経済的手段であるから、組合員の共有に属し(民法第六六八条)、清算前にその分割を求めることはできない(同法第六七六条)が、既に組合が解散し、組合の債権債務の整理を完了した後の残余財産はもはや組合目的に拘束されず、分割の対象としての共有財産であるから、その分割については、清算人による分配の手続がなされない以上、共有物分割の規定を類推してこれを行うのが相当であるからである。

三そこで、以下残余財産の状況及びその処置について検討を加えることとする。

1  昭和四八年四月末日までの間に、本件不動産及び本件動産が被告名義で取得され、本件不動産について被告名義で所有権移転登記がなされていることは当事者間に争いがない。

そして、本件不動産及び本件動産がいずれも原告と被告の各二分の一の割合による共有であることは前記一1・2において認定したとおりである。

2  ところで原告は本件建物について共有持分二分の一とする所有権(持分権)移転登記手続を求めるが、この請求は認容されるべきである。けだし、本件建物は元来本件契約に基づく組合財産であつて、その所有名義は本件契約の存続中被告とすることに定められており、契約終了後は清算もしくは残余財産分配のため処分又は帰属を決定すべきものであるが、前記のとおり、既に本件契約は終了し、清算手続も進行して組合目的による拘束が消滅している以上、本来の共有関係を公示することを拒む理由はないからである。

3  次に、原告は本件各土地についてはその現物分割を請求し、これに対し、被告は右請求は時機に後れて提出された攻撃方法であつて、これがために訴訟の完結を遅延せしめるものとしてその却下を申立てるので、右申立の当否について判断する。

右各土地について現物分割の請求がなされるに至つた経過をみると、原告はまず訴状においては、本件各土地の共有権確認、共有持分権移転登記手続及びその代金分割を請求し、次いで昭和五五年一月三一日付請求の趣旨訂正の申立書において代金分割の請求を撤回し、昭和五六年七月一日付請求の趣旨訂正の申立書において共有持分権移転登記手続の請求を撤回すると共に土地の現物分割の請求及び分割された土地についての所有権移転登記手続の請求を追加したものであり、以上の事実は当裁判所に顕著である。

被告は右に述べた経過から現物分割の請求を追加することは、新たに土地の面積、分割の割合、分割の位置についての主張・立証が必要であり、訴訟の完結を遅延せしめるものであると主張するのであるが、前記のように、原告は当初は本件各土地につき代金分割を請求し、訴訟もそのもとに進行していたのであり、また共有物分割請求において、分割方法の主張は訴えの要件ではなく、当事者が主張しても裁判所はこれに拘束されることなく、実状を審理し、民法の規定に従つて分割するのであつて、被告主張のように、分割方法について必ずしも常に特別の主張・立証を要するものではない。従つて、原告の本件各土地の現物分割の請求が時機に後れて提出され、これによつて訴訟の完結を遅延せしめるものとは未だ断じえないから、被告の右申立は理由がない。

4  そこで、本件各土地の分割について検討するに、<証拠>によれば、本件各土地上には本件建物が存在し、右各土地をそれぞれ二分の一宛分割した場合いずれの土地についても一個の建物が分割された部分にまたがつて存在することになる(本件各土地を総体的に一団の土地としてこれを原告主張のように二分したとしても同様である)ことが認められるから、かかる分割方法は本件各土地の価格を著しく低下させるおそれがあるといわなければならない。

従つて、本件各土地については、その競売を命じ、売却代金を分割することとするのが相当である。

5  原告は本件動産について共同経営を解消した昭和四八年四月末日をもつて評価した金額の二分の一の分配金を請求するが、これは共有物分割における価額賠償の方法による分割を求めているものと考えられる。しかし、裁判上の分割において、裁判所は現物分割又は代金分割のいずれかを選ぶほかなく価額賠償の方法によることは許されないと解すべきである。

また、多種多様な本件動産につきこれを現物で分割することは事実上不可能といわざるをえない。

よつて、本件動産についても競売の方法による代金分割をするのが相当である(なお、本件動産中、水銀血圧計付属付一個、十二指腸ファイバースコープ一個、医療関係書籍一二冊が現在原告の占有にかかることはその自認するところである)。

四利益分配金について

前記のとおり、本件契約は大旺病院の共同経営を目的とする原告と被告の組合契約であり、これによつて生じる利益は両者が折半してこれを取得する約定であつたから、右契約期間中に生じた収入と支出を精算し余剰があればこれを二分の一宛分配すべきである。

1  昭和四六年分について

<証拠>によれば、被告は昭和四六年一二月三〇日原告に対し、昭和四六年分の利益を分配したが、右利益の算出に当つては、本件建物の建築費用として金一三〇〇万円を要したとして計算したことが認められる。

ところで、原告は、真実の右建築費用は金八〇〇万円であつたと主張し、その本人尋問(第一回)において、その旨中村款から聞いたと供述する。しかしながら、右供述は伝聞であり、かつ証人松島英雄の証言に照らしても信用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、<証拠>によれば、本件建物の建築費用は少なくとも金一三〇〇万円を要したことがうかがわれる。従つて、前記主張を根拠とする利益分配の請求は理由がない。

2  昭和四七年分について

(一)(1)  請求原因事実4(二)(1)の保険窓口収入は、<証拠>により金三一一一万八一二二円であると認めることができる。

(2)  同(2)の労災保険収入は、<証拠>により、金七八四万一〇五六円であると認めることができる。

(3)  同(3)の保険基金収入は、<証拠>により、金一億一〇六七万八〇八四円であると認めることができる。

(4)  同(4)の交通事故治療費の窓口収入は、<証拠>により、金一一七七万〇一八五円であると認めることができる。

(5)  同(5)の交通事故治療費の銀行送金による収入については、原告は、その本人尋問(第一回)で、右収入額は金二〇〇万円であると担当の山田某から聞いた旨供述するが、右供述は伝聞であつてこれを裏付ける的確な証拠がないからにわかに信用できず、他に原告主張の金額を認めるに足りる証拠はない。

(6)  同(6)の自由診療費収入は、<証拠>によれば、金三六万円であることを認めることができる。

(7)  同(7)の部屋代差額による収入について、原告はその本人尋問(第一回)で、病床はいつもほぼ満床で、差額は合計で一日金三万円であつたと供述するが、病床が常に満床であつたとは認めるに足りず、従つて、右差額は、<証拠>により、一日当り金二万六〇〇〇円とし、その三六五日分合計金九四九万円と認めるのが相当である。

(8)  同(8)ないし(14)については<証拠>によりこれら(合計金三三八万円)を認めることができる。

以上認定の事実によれば、昭和四七年の大旺病院即ち原・被告の組合の総収入は金一億七四六三万七四四七円であることが認められ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用しない。

(二)  そして<証拠>によれば、右総収入を得るのに要した必要経費は金一億一九二三万八三九四円であることが認められるので、右総収入から必要経費を控除した残額が大旺病院即ち原・被告の組合の総所得となるが、<証拠>によれば、右必要経費の中には原告に支払われた給与名目の金員(以下「原告受領分」という)も含まれていることが認められるので、右総所得を計算するには、右必要経費から原告受領分を控除する必要がある。

そして以上の計算の結果得られた総所得から原・被告に課せられた各種税金を控除した残額が純利益であり、この二分の一の金員がそれぞれ原・被告の取得すべき分配金となる。

(三)  そこで原告受領分について調べてみる。

<証拠>によれば、昭和四七年分の所得税の確定申告において原告の所得は金一〇三八万円と申告されていることが認められる。

ところで、原告は、原告が現実に受領した金員は金八三八万円であつたと主張するので検討するに、<証拠>によれば、原告は昭和四七年一二月三〇日までに給料として合計金三八八万円、夏期及び冬期賞与として合計金二五〇万円の支払を受け、昭和四八年二月一一日被告から金二〇〇万円の貸与を受けたが、昭和四七年分所得税の確定申告に当り、被告との合意によりこれを昭和四七年一二月三一日に遡つて冬期賞与として追加支給を受けたこととしたこと(原告が昭和四七年分の給料・賞与の名目で合計金八三八万円の支払を受けたことはその自認するところである)、被告は昭和四七年中に現実に原告に支払つた金六三八万円については所得税の源泉徴収をしたか、前記貸付金二〇〇万円を賞与に振替えたほか税務処理の便宜上更に同日付で金二〇〇万円の冬期賞与を追加支給したものとし、右金四〇〇万円について源泉徴収すべき所得税額金一〇二万〇三九〇円(乙第一七号証)は被告が負担して納付しかつ以上の措置に基づき原告の昭和四七年分所得税の確定申告(これは被告の依頼で松島税理士が原告を代行して行つた)による納税額金七九万六六〇〇円(乙第一八、第一九号証)も被告が負担して納付したことが認められる。

そして右追加賞与金二〇〇万円(貸金の振替分ではない分)は現実に交付されていないが、前記源泉徴収分金一〇二万〇三九〇円は当然控除されるべきものであり、確定申告による納税立替分金七九万六六〇〇円については相殺勘定をされているので、差引金一八万三〇一〇円が賞与未払分として原告に支払われるべきである。被告はその本人尋問で昭和四八年四月分の給与とあわせて右差額金を支払つたと供述するが、確証がなく、にわかに信用できない。

従つて、前記必要経費から控除されるべき原告受領分は金一〇三八万円であるが、原告は被告に対し、別途、昭和四七年賞与未払分の名目で金一八万三〇一〇円の支払を求め得るものとするのが相当である。

(四)  そうすると、前記必要経費から右原告受領分金一〇三八万円を控除すると、金一億〇八八五万八三九四円となり、該金員を前記総収入から控除した金六五七七万九〇五三円が原告と被告の総所得ということになる。

(五)  次に、原・被告に課せられた各種税金について調べると、原告は、<証拠>によれば、所得税として金二六六万一〇〇〇円を、<証拠>によれば、昭和四七年の所得を基礎とする昭和四八年分県市民税として金一一一万九四二〇円(合計金三七八万〇四二〇円)をそれぞれ課せられたことが認められ、被告は、<証拠>によれば、所得税として金二五七三万一四〇〇円、<証拠>によれば、事業税として金三九万二二四〇円、県市民税として金七三三万七〇一〇円(合計金三三四六万〇六五〇円)をそれぞれ課せられたことが認められる。

(六)  そこで、右各種税金(合計金三七二四万一〇七〇円)を前記原・被告の総所得金六五七七万九〇五三円から控除すると残額は金二八五三万七九八三円となり、その二分の一である金一四二六万八九九一円が原・被告のそれぞれ取得すべき分配金となる。

(七)  ところで、前記認定のように原告は金一〇三八万円を受領しているので(前記賞与未払金一八万三〇一〇円もとりあえず支払つたものとする)、該金員から前記原告名義の各種税金(合計金三七八万〇四二〇円)を控除した金六五九万九五八〇円が税引後の原告の所得である。他方、被告の所得は前記原・被告の総所得金六五七七万九〇五三円から原告の所得金一〇三八万円を控除した残金五五三九万九〇五三円であり、これから前記被告名義の各種税金(合計金三三四六万〇六五〇円)を控除した金二一九三万八四〇三円が税引後の所得となる。原告と被告の分配金は前記各金一四二六万八九九一円であるから、被告は右分配金よりも金七六六万九四一二円多く受領していることとなり、これを原・被告間で調整すると、被告は右金員を原告に支払う必要がある。

(八)  そこで、原告は被告に対し、昭和四七年分の利益分配金としては金七六六万九四一二円及び同年度の賞与未払金一八万三〇一〇円の合計金七八五万二四二二円を請求しうることになる。

3  昭和四八年分について

原告が被告から昭和四八年一月一日から同年四月末日までの給与として金一四一万七六五〇円を受領していることは当事者間に争いがない。

原告は、右期間の利益分配金について、前年分を基準としてその四か月分を主張する。

右算出方法自体は一応合理的で相当といえるが、2で認定したとおり、前年の原告への利益分配金の額は金一四二六万八九九一円であるから、右金員の四か月分である金四七五万六三三〇円が昭和四八年分の原告の利益分配金であると考えるべきである。そうすると、右金員から前記受領済の金一四一万七六五〇円を控除した金三三三万八六八〇円が被告に対して請求しうる金額となる。

五相殺の抗弁について判断する。

1  被告が本件契約解消後、抗弁事実2の(二)ないし(五)のとおり、大旺病院の残債務を弁済したことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は同(三)及び(四)の各利息分については被告はこれを求償しえないと主張するが、その根拠が明らかでなく採用できない。

2  そうすると、被告は右(二)ないし(五)の弁済額合計金六七二四万二七九五円の二分の一である金三三六二万一三九七円につき原告に対して求償権を取得したものというべきであり、被告が昭和五六年七月一日の本件口頭弁論期日において、右求償債権をもつて原告の本訴請求債権とその対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著である。

3  右相殺の意思表示の結果

(一)  被告が昭和四八年六月三〇日いわしや飯島医研に対し完済したことにより取得した求償債権金五八万六〇〇〇円と原告の被告に対する昭和四七年分利益分配金及び賞与未払金債権合計金七八五万二四二二円中の金五八万六〇〇〇円が消滅し、

(二)  被告が昭和四九年一一月一五日東芝富士レントゲン株式会社に対し完済したことにより取得した求償債権金四〇一万円と原告の被告に対する前記(一)の残元本債権金七二六万六四二二円に対する訴状送達の翌日である昭和四八年一一月二日から右昭和四九年一一月一五日までの年五分の割合による遅延損害金債権金三七万七二五六円及び右七二六万六四二二円中金三六三万二七四四円が消滅し、

(三)  被告が昭和五二年一月一四日までに公庫及び横浜銀行に対し元利金合計金五八〇五万〇七九五円を完済したことにより取得した求償債権合計金二九〇二万五三九七円中の金七九〇万〇二三六円と原告の被告に対する前記(二)の残元本債権金三六三万三六七八円及びこれに対する昭和四九年一一月一六日から昭和五二年一月一四日までの年五分の割合による遅延損害金債権金三九万三二三二円(以上の合計金四〇二万六九一〇円)並びに原告の被告に対する昭和四八年分利益分配金債権金三三三万八六八〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和四八年一一月二日から昭和五二年一月一四日までの年五分の割合による遅延損害金債権金五三万四六四六円(以上合計金三八七万三三二六円)とが消滅したということができる。

4  以上によれば、被告の相殺の抗弁は理由があり、原告の利益分配金請求は失当として棄却されるべきである。

六(結論)

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(佐藤安弘 澁川滿 太田武聖)

不動産目録<省略>

有体動産目録<省略>

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